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PERSON #39

株式会社タゼン

設備部技術係

引地 拓 さん

TAKU HIKICHI

東北芸術工科大学大学院卒業 2019年入社

2020年度取材

銅を介してのコミュニケーションが、
この仕事のやりがい

高校時代から金属を学び、大学院では銅をメインに
彫刻物や工芸品を制作していた引地さん。
400年以上の歴史を持つ仙台きっての
老舗企業・タゼンに就職したのは、
さまざまな巡りあわせがあったそう。
そんな引地さんに、仕事について話を聞きました。

01

この会社を選んだのは
なぜですか?

大学院まで芸工大で金属工芸を学んでいて、作家になるのか、個人事業主になるのか悩んでいた時に、インターンで京都の老舗のすず加工の店で2週間お世話になったんですね。その時に、その会社が神社仏閣であったり、地域に深く根差しているのを目の当たりにして「僕も地元で何かできないか」と思いました。そんな折、芸工大の同級生がタゼンに事務職で入社し、副社長と「卒業制作展に行こう」となったらしいんです。副社長が大学に来た際「銅の仕事ができる人を探している」と大学に申し入れてくれて、僕がタゼンで働くチャンスを得ました。同級生がタゼンに入っていなければ、今僕はここにはいないですね(笑)。人に恵まれてここまで来ることができました。

02

どんなお仕事を
されていますか?

僕が所属する設備部はガス関係、水道関係のリフォーム、取り付けを行っています。その搬入の補助に入るなどのアシスタントをすることもありますが、僕の場合はほかの社員と少し違って銅がメインになります。製作のほか、修理、メンテナンスも行っています。弊社では「職人商人(あきんど)」の精神で、ヒアリングから納品、フォローまで、職人としても商人としてもお客さまに関わることを是としています。ですので、銅に関する最初から最後までが僕の仕事となります。あとは、週に1度は師匠でもある副社長と銅についての打ち合わせを行います。「あかがね仙台」というプロジェクトでは、僕が製造したせり鍋をお披露させてもらったんですよ。また、SNSの運用や、YouTubeの動画撮影・編集も行っています。

03

仕事のやりがいは
どんなところに感じますか?

お客さまのお悩み事を解決できたときですね。家で何十年と眠っていたフライパンを「もう一度使いたい」と持ち込まれたお客さまがいました。その古いものをお預かりして直してお渡しすると、すごく喜んでくれたんですね。それが本当にうれしくて。銅を介してコミュニケーションできるのが、この仕事のやりがいですね。

04

仕事で大変だと思うことは
何ですか?

体力が無限ではないことです。銅は金槌を振って叩いて物を作るので、集中云々ではなく、単純に腕が「やめて!」って悲鳴を上げるんです(笑)。あとは、修理などでお客様からのご要望にお応えするときです。100%でお応えできればそれに越したことはありません。しかし、予算や修理可能な範囲にも限界があります。ご要望通りにお答えするのが難しい時、僕が怒られて終わりならそれでも良いのですが根本的な問題解決にはなりません。いつも「どう伝えるか」を考えてご案内をさせてもらっています。

05

目標を教えてください

ここ1年くらいで「あかがね仙台」というプロジェクトを本格化させることができました。今後は、僕以外のスタッフも増やして、銅の製作修理をもっと広くできればいいな、と思います。また、続けていくには、認められることが大事だと思っていますので、こうして多くの方に話す機会をいただけたら、精いっぱいやっていきたいです。
また、僕は銅の製作以外に広報もやっていて、学生に向けての会社案内やSNSの運用、YouTubeの撮影、編集もしています。この会社の中で「始めたばかりのこと」が多すぎるので(笑)、それを安定させるのが当面の目標です。

06

就活生にメッセージを

やりたいことを仕事にするのか、やりたいことのために仕事をするのか、線引きするべき。好きなことを趣味として仕事は別にするのか。もしかしたら、好きなことを仕事にして苦になるパターンもあるかもしれませんが、何が自分に合っているのか、向き合って仕事を探したほうがいいと思います。お金を稼ぐのが目的なのか、楽しむ仕事をしたいのか。両立すればいいけれど、なかなかそうはいかないのが現実なので、よく見極めてほしいです。

ある日のお仕事スケジュール

  • 5:30

    起床

    身支度をして、家を出る準備をします。

  • 6:30

    出勤

    家を出ます。電車通勤です。

  • 7:30

    出社

    まずは掃除を行います。会社全体で決まっていて、その週の担当の場所をきれいにします。

  • 8:00

    始業

    銅の製作、修理などを行います。

  • 12:00

    昼食

    持参した弁当を食べます。

  • 13:00

    午後の仕事開始

    動画編集やSNSの更新など、銅製作以外のことにあてることが多いです。

  • 17:00

    終業

    乗換駅である仙台駅で買い物に立ち寄ることもあります。

  • 19:00

    帰宅

    入浴をして、猫にごはんをあげて、夕食を家族と一緒に食べます。夕食後は、個人の銅作品のためのアイデアスケッチをしたり、母と一緒にドラマを見たりすることもあります。ほかにもネットをしたり、ゲームをしたり、その日によってバラバラです。

  • 23:00

    就寝

  • 休みの日の過ごし方

    9:00ころに起きて、掃除をします。そのあとは、コーヒーが好きなのでコーヒー屋さんに行ったり、カフェに行ったり。歩くことも好きなので、閖上の方まで散歩したりもします。かなり格好つけた感じの休日ですね(笑)。

  • わが社の自慢ポイント

    歴史のある会社で、400年以上のお付き合いがあるお客さまがいることは自慢だと思います。また、弊社で行っている行事としては、「ふいご祭り」があります。これは、火の神様を祭って、けが無く過ごせるように祈願するお祭りです。弊社は11月8日が創業記念なのですが、この日は全国的にふいご祭りの日なんですね。弊社では銅製の刀を模したものを奉納しています。

経営陣へのインタビュー

「職人商人」の育成で、
業界のイメージを払拭したい

副社長
田中 善 さん

キッチン、風呂、トイレといった住設備を専門とする株式会社タゼン。その歴史は大変古く、慶長元年(1596)、伊達政宗公の求めに応じて岩出山にやってきた善蔵を始祖とします。今でいう御銅師(おんあかがねし)であった善蔵の技を代々引き継ぎ、創業時から銅鉱山からの流通、彫金等の製造技術を含む一連を担っていました。明治に入るころには風呂釜を作るようになったことから、今の業態へと移り変わってきました。
19代目となる田中さんは「銅製品は無くしてはならない技術(17代談)と、伏流水のごとく専門の職人を配置し、作り続けておりました。 それを私の代では表立って復活させ、せり鍋などの銅製品を製作したり、実際に銅製品の製作体験などを提供しています」と話します。現在は、銅(あかがね)をキーワードに、見る・味わう・体験を提供する「あかがね仙台」というプロジェクトを立ち上げるなど、精力的に活動しています。
タゼンが大切にしているのは「職人商人(あきんど)」の精神。これは、「お客さまに対する1対1の徹底フォローを指します。職人は想像・創造、商人はコミュニケーションととらえていただくとわかりやすいかと思うのですが、『職人商人』はそのふたつを持った、究極のバランスがとれた人材のことなんです。私たちの仕事は“3K”と思われがちですが、生活には欠かせません。私は『職人商人』の育成で、そのイメージを払拭したいと思っています」と語られました。
長い歴史の中で培ってきた地元客とのつながりを「職人商人」の精神で大切しながらも、田中さんは銅をキーとした海外向けビジネス、銅製品のサブスクリプション、銅を体験することでのシビックプライドの向上までも視野に入れています。
若きリーダーのもと、新しいことにも挑戦していく仙台きっての老舗企業から、目が離せません。

企業情報

所在地
仙台市青葉区一番町一丁目12−40
電話番号
022ー284ー1641
従業員数
47名
2022年度
新卒募集人数
2名
過去の採用実績
東北芸術工科大学、宮城学院大学、尚絅学院大学院、東北学院大学、東北福祉大学
公式
ホームページ
https://tazen.co.jp

学生の私たちも取材に同行しました

01

社会に出た後に学んだことの中で、一番役立っていることは何ですか。

学生時代に学んだことが仕事に直結しないということです。例えば、学校の教科で国語ってありますけど、国語って古文とか現代文とかに細分化されますよね。その個々の勉強をするから、テストでも良い点数が取れる。でも社会では学生時代に学んだことを直接使えるわけじゃないですよ。だからこそ、周りの環境に合わせて自分の知識を変化させて、深掘りをしていくことが大切なんです。

02

尊敬する人とその理由を教えてください。

田中副社長です。銅製品の製作で考えると自分には直属の先輩にあたる方がいないのですが、副社長には「銅と人がつながる」ことを多くの経験から教えていただきました。副社長の銅製品に対する仕事ぶりや思いを間近で見て、長く使える銅製品を通じてお客様と関わりを持ち、信頼関係を築いて地域とのつながりを深めることが大事だと学びました。

Interviewer

東北大学軽部 勇樹 さん

話を伺った中で、「職人商人(あきんど)」という言葉がとても印象的でした。日本では職人は物作り、商人は物の販売というように二分化されることが多い印象ですが、タゼンさんはそれらを一つのこととして捉え社員が両方を担っている。タゼンさんが地域の方に信頼されている理由が理解できた気がします。

Interviewer

宮城大学青柳 美花 さん

今回のお話で特に印象深く感じたのは、銅製品の魅力を発信する方法についてのお話です。海外への販売、銅製品を一定期間貸し出すレンタルサービス、銅製品を作る体験事業などの方法があると田中副社長に教えていただき、伝統のある銅製品を今後どのように発展させていくかが興味深く感じました。