PERSON #61
特定非営利活動法人アスイク
コーディネーターユニット
森川 ゆとり さん
YUTORI MORIKAWA
東北大学大学院卒業 2022年入社
2022年度取材
ミクロとマクロの視点から、子どもたちの支援をしていきたい
大学院卒業後、人材業界に入った森川さん。夢を持つ大人との仕事を続けるうちに、「社会は明るい側面だけではない」との気づきから、子どもたちの「心の土台づくり」をしたいと考えるようになったといいます。現在、学習支援コーディネーターとして子どもたちとかかわる森川さんに、お仕事について伺いました。
この業界を選んだ理由は?
もともと、「ひとりひとりが自分らしくいられる、輝ける社会にしたい」という思いがあり、大学院卒業後は人材業界に就職しました。その後ご縁があり、地域活性のお仕事に携わりましたが、移住希望者などの⼈の人生の転機にふれる中で、「この人はどういう風に活躍するんだろう」と考えるのが楽しくて、3年くらい仕事を続けていました。当時私が相手にしていたのは、どちらかというと金銭的にも自立していて、何か実現したい夢があるキラキラした大人が多かったです。でも、社会はそういう側面だけじゃないよね、と。そのうちに、人がのびのびとチャレンジするにあたっての「心の土台づくり」から関わっていきたいと思うようになったんです。それで、関わる対象を大人から子どもにシフトして支援していけたらいいなと考えるようになりました。
この会社を選んだ理由は?
最初は子どもにかかわるボランティアをしようと思っていて、検索したら「アスイク」が出てきたんです。ちょうど「アスイク」10周年のシンポジウムがあって、参加してみました。私はそれまでの人生で貧困が身近ではなかったのですが、「アスイク」で関わる保護者の方たちの生の声を聞いて「こんな領域もあるんだ」と衝撃を受けました。まさに私が関わってみたいと思っていたものだったので、転職をすることにしたんです。
現在、どんなお仕事をされていますか?
学習支援のコーディネーターをしています。私が担当しているのは、生活困窮家庭の中学生のための放課後の勉強と居場所づくり、子どもたちとのふれあいがメインです。教室を運営するにあたってのボランティア、アルバイトの募集も行っています。教室以外にも、職場体験やキャンプ等、さまざまな体験プログラムやっているので、そのプログラムの企画運営をしています。そのほかに、仙台市と協働してのヤングケアラー支援プロジェクトのプロジェクトマネージャーを任されています。
仕事のやりがいはどんなところに感じますか?
子どもとのふれあいですね。何事もなくおしゃべりするだけの日も楽しいです。でも、自分がきっかけで何かが動くとすごくうれしい。たとえば、こないだまで来ていたのに、急に不調になって来れなくなってしまった子など、生きづらさを感じている子たちの家を訪問して、顔を見て、「今度イベントがあるからおいでよ」って誘ったら「行ってみようかな…」って言ってくれたり、本当に来てくれたり。子どもたちのスモールステップに立ち会えた時「やっててよかったな」と感じます。
仕事で大変だと思うことはどんなことですか?
実は、大変だなと思うことはあまりありません。ただ、仕事に慣れるまではいろいろ気を遣うことが多かったです。転職して、「初めまして」の子どもばかりだったし、慣れてもらうまで少し時間がかかりました。子どもたちも、いろんな背景があって、ひとりひとり違って、「この場合はこうだろう」というパターンではいかない。これまで大人としか関わってこなかったけれど、子ども扱いせず対等な立場で…ということに少し時間がかかったかもしれません。
最も心がけていることは何ですか?
相手のことは100%わかるわけではないという謙虚さを持つことです。慣れてくると「前もこういうことがあったな」とか、「こういう子は、こういう傾向だよね」とパターン化してしまう傾向にあります。わかっていることは大事だけど、パターンに当てはめることはせず、その子が抱えている世界に入り込むことを意識しています。「今はもしかしたら話したくないかな…」とか、想像力を働かせながら接するようにしています。
今後の目標を教えてください
ミクロとマクロの点から三つあります。一つ目は、もともと大学時代から精神領域に興味があったこともあり、現場で子どもたちの「心の発達」「心の土台づくり」の専門性を身に着けていきたいということ。二つ目は、大人も視野に入れた支援です。子どもたちと関わる中で、大人である親御さんも背景にいろいろなものを抱えていると感じました。今、キャリアコンサルタント資格取得のために勉強をしていますが、「キャリア」を職業活動だけでなく、”母”などのライフステージ上の役割や個人としての生き方を含む人生全体として捉え、大人と子どものいい循環を作っていきたいです。三つめは、自分自身が組織や社会とのハブとなり、当事者の声から社会の動きを創っていくこと。今はまだまだですが、いずれはできる存在になりたいです。欲張りですね(笑)。
学生時代に役立った経験はありますか?
本気で取り組んだサークルとゼミです。サークルはよさこいをやっていて、仙台のよさこい祭りにも参加しました。よさこいという集団行動をする中で全体の演舞を指導する役割を担って、全体をひっぱっていくのと同時に、置いていかれがちな後輩と一緒に練習したりしていました。ミクロとマクロの目線を持てたのはサークルのおかげだと思います。そして、ゼミでは実に濃密な学びの時間を得ることができました。私の所属していたゼミは、毎週3冊本を読んで発表するスパルタな研究室でしたが、必死にかじりつきながらほかの学生と切磋琢磨しました。その時間は、脳の忍耐力を鍛える贅沢な時間でしたね。
就活生にメッセージを
就活は、サクサクできる人もいれば、苦戦する人もいると思うんです。実は私も苦戦したパターンでした。好きな専門分野はあったけどそれをどう社会へつなぐか、好きなものをどう生かそうか苦心しました。ただ、当時大事にしていたのは、外の人と会ってみて、好きも嫌いも自分の心の声を聞くこと。就活で嫌な思いをすることもあると思います。私も面接で嫌なことを言われたこともありました。それが半面教師となって、「私だったら、人生の転機にいる学生に会ったら、『それ、いいじゃん、いいじゃん』って言ってあげたい」って思ったんです。その気持ちを分析して、人に関われるようになったらいいかなと思って、人材の道に進みました。就活は、これ以上ないほど自分と向き合う時間だと思って、がんばってほしいです。
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8:00
起床
朝は比較的ゆっくりです。コーヒーを飲みながら本を読んだり、YouTubeを見たりします。
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10:00
勉強
キャリアコンサルタントの資格勉強をしたり、コーチングの認定資格を持っているので、クライアントさんとのセッションの時間にあてたりしています。
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12:00
出社
スケジュールとタスクの確認をしています。週報ミーティングでは、子どもたちの1週間の様子を報告します。
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14:00
内勤
アルバイトスタッフやボランティアスタッフの面接を行います。そのほかにも事務作業や体験プログラムの企画を考えたりしています。
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18:00
外回り
いくつかの教室をまわって、子どもたちの学習支援やコミュニケーションを取ります。教室に行く前にコンビニで買った簡単な食事を摂ることも。
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21:00
帰宅
少しゆっくりしてから、夕食をいただきます。
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0:00
就寝
日付が変わる前にベッドに入るようにしています。
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休みの日の過ごし方
土曜日は資格の勉強とコーチングのセッションを行います。日曜日は、午前中に家事を一気に片付けてしまって、午後は絶対にキックボクシングジムに行くと決めています。夕方からは友人と会って食事をすることもあります。
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わが社の自慢ポイント
会社での研修が年に4回あって、アルバイトさんもボランティアさんも参加できることです。子どもに関わる専門的知識や「アスイク」の価値観やビジョンを学ぶことができ、同じ目線で子どもたちと接することができるようになるのは、とてもいいことだと感じています。
生きづらさを抱える子どもたちを支えるインフラに
代表理事 大橋 雄介 さん
NPO法人アスイクは、2011年の東日本大震災の後、大橋理事が個人で始めた学習支援ボランティアがその礎となっています。「学校が避難所になってしまい、子どもたちが学校に通えない時期がありました。そのときに、子どもたちの学習支援を始めたんです。当時、避難所はピリピリした雰囲気だったので、子どもたちが集まるのかわからなかったのですが、結果4人の子どもが来てくれて。その子たちが笑顔になってくれて『また来てね』と言ってくれたんです。その時の笑顔が、今のロゴマークになっているんですよ」と教えてくれました。同年、大橋理事は、NPOを立ち上げます。
しばらく経って被災者の生活の場が避難所から仮設住宅へと移ると、子どもたちへの虐待、貧困、不登校などの問題が可視化されるようになりました。「もともとあった問題が、震災で可視化された形です。2013年に仙台市との協働事業で生活困窮家庭の学習支援を始めました」。それをきっかけに、現在ではさまざまな自治体と協働し、その数は県内半分にまでなりました。子どもの学習支援のほか不登校・引きこもり支援、フードバンクや訪問支援などのセーフティネット事業、保育園や児童館・放課後児童クラブなどのスタートライン事業ユニットなどさまざまな事業を行っています。
震災をきっかけに立ちあげたNPO法人は、今年で12年を迎えます。「いじめや不登校をゼロにすることは難しいでしょう。私たちは、生きづらいと感じているお子さんたちに共助・公助の機会を増やし、その情報を社会に発信してつないでいくインフラ的な役割を担っていきたいと考えています。自分がどんなことをやりたいのか、どんな社会にしたいのか自分なりのビジョンを持っている人は、ぜひ一緒に行動しましょう」。
- 所在地
- 宮城県仙台市宮城野区鉄砲町中3-14 テラス仙台駅東口2階
- 従業員数
- 157名
- 2023年度
新卒募集人数 - 3名程度
- 過去の採用実績
- 東北大学、東北福祉大学、東北学院大学、宮城教育大学、仙台青葉学院短期大学
- 公式
ホームページ - https://asuiku.org
アスイクに来てから成長したことは何ですか?
子どもと関わるようになってから、どうにもならないような状況でも、忍耐強く耐えることができるようになりました。子どもたちにとって、あまり良くない状況が続いてしまうことは多々あります。しかし、そこで子どもたちとのコンタクトを切らさずに、状況が良くなるように待ったり、見守りながらも聞けそうだったらヒアリングをするようにしています。アスイクで仕事する上で、視野が広がり人として成長できたと感じます。
尊敬する先輩とその理由を教えて下さい。
相談支援をしているソーシャルワーカーチームと運営をしているコーディネーターチームの両方があるのですが、どちらのリーダーも様々なヘビーな経験やスタッフさんとの信頼関係を構築してきた経験をしている方です。良い面だけではなくて、リスクに敏感だったり、視野をすごく広く持ってとても学びになりますし、「私もこうなりたい!」と思います。
宮城学院女子大学川島 和佳乃 さん
森川さんの、一方的に何かをしてあげるのではなく、当事者の声に耳を傾けることが大切だというお話が印象的でした。子どもたちと対等に接することを心がける森川さんにだからこそ、相談できる子どもも多いのではないかと感じました。また、目の前のことに本気で取り組むことが大事だと伝えてもらい、意欲が高まりました。
東北福祉大学石川 七海 さん
お二人のやポジティブシンキングが印象的で、そのような思いが、支援をしている子供や保護者にも伝わり、元気を与えている理由になっていると感じました。大橋さんのアスイクを起業したきっかけが東日本大震災のボランティアだったというお話も心に残っており、アスイクで働いている方たちは利他精神を大切にしているという印象を受けました。